ヒヨコ 3月30日

昨日 3月29日 ヘルハウスに新たな命が誕生した。名前はムーブ ヒヨコである。

ずっと前から孵卵器に置いてあった卵にヒビが入り、ピヨピヨという可愛らしい鳴き声がヘルハウス中に響いた。卵が割れて生き物が産まれる光景を始めてみた。非常に神秘的だった。

ゲームの中でリュックに卵を入れて一定数以上歩いて孵化させた事はあったが、それとは全く違うものだった。

住人たちは皆ヒヨコに夢中になった。その時私は心の中に黒いモヤのような感情あるとことに気がついた。最初はそれが何かわからなかった。

それは嫉妬であると気づいた。私は目の前の小さな生き物に嫉妬しているのだ。

ヒヨコが卵から抜け出しピーピーと鳴き声を大きくしていくのに比例して、私の嫉妬心も大きくなっていた。

周りに内心を悟られないように、その場を離れ自室にこもった。布団を被る。

二時間ほど経っただろうか。トイレに行きたくなった。

皆さんもご存知の通りだろうが私は夜に一人でトイレには行けない。いつも住人の誰かに付き添って貰っている。

いつも通り住人に声をかける。「ごめん ヒヨコ見てるから無理だわ 一人で行って」

彼はヒヨコから目を離さずに答える。心の中の黒いモヤが私を包む。その後どうなっかは覚えていない。気がつくと私は自室の布団の上にいた。カーテンの隙間からは太陽の光が漏れている。

ズボンが水浸しになっていないところを見ると、どうにしかして一人でトイレに行ったのだろう。

さてこれからどうするのだろう。下のリビングに降りる。ヒヨコはピーピーと鳴いている。周りには誰もいない。孵卵器を開けてヒヨコを見る。ヒヨコはピーピーと鳴いている。

その時私は始めてしっかりとそのヒヨコを見た。

その瞬間私を包んでいた黒いモヤは消え去り、代わりに暖かい光のベールが私を包みこんだ。

トイレなど一人で行けばいいではないか。食事した後の口など自分で拭けばいいではないか。休み時間の絵本など自分で読めばいいではないか。そんな事どうでもいいではないか。この目の前の小さな命に比べたら。

覚悟を決めた私の目を見ながら、ヒヨコは変わらずピーピーと鳴いている。