副業のすき家 初デート 4/5(水)

最近工場の仕事が終わった後にすき家で働いている。

すき家のバイトはキツいと言われるが、全くそんなことはない。工場に比べると屁みたいなものである。まず全く何もせず突っ立っていい時間があるというだけで天国だ。工場のラインは業務中は常に何かをしていないといけない。

深夜客の来ない店内で一人で突っ立っている。店内にはラジオが流れている

すき家では常にBGMで「すき家ラジオ」という物が流れている。DJが明るい声で送られてきた爽やかなメールを読む。

全く持って深夜の牛丼屋に似つかわしくない。

「毎日肉体労働でつかれています。安い賃金ですが他に出来ることもありません 仕事終わりに飯を作る気力も作ってくれる彼女もいないのですき家で腹を満たします 家に帰ると湿度の高い布団で寝るだけです」これが真のすき家ラジオではないだろうか。

俺も「バイト初日に右も左もわからない俺に優しく丁寧に教えてくれた先輩がいて『こんな風になりたいなぁ』と憧れていたら、その先輩が仕事上がりに、俺が人生で見た中で一番ボロい車に乗って『お疲れ』と帰っていって何とも言えない気持ちになった」というメールを送ってみようか。まぁ読まれないだろうけど。

朝方に仕事が終わり家に帰り眠る。昼にはマッチングアプリで知り合った女性とデートに行った。

待ち合わせはイオンモール。なんとなく鏡を見ると無精髭が生えている。これでは会えないと思い薬局で髭剃りを買って近くのトイレで髭を剃る。

だが緊張から手を滑らし、カミソリで唇を切ってしまった。いくら唇を吸っても血は止まらない。

もう帰ろうと思った。ただでさえ良くない容姿なのに、血だらけで来たらもう終わりである。相手が実は吸血鬼である場合を除いては。眷属にしてもらえるかもしれない。

だがマッチングアプリのアイコンの写真の彼女の八重歯は丸い。多分吸血鬼ではない。

とりあえず唇にティッシュを当てながら彼女を待つ。

声をかけられた。振り替えるとそこには女性がたっていた。写真で見るより小柄でかわいかった。年齢は24と聞いていたが、それより若く感じる。

とりあえず唇にティッシュを当ててる理由を説明した。

そして自分が童貞であることと、デートが始めてであることも説明した。

彼女は「そうなんですか」と微笑を浮かべていた。

なんとか唇切ったマイナスを挽回しようと思い

「いやぁ 僕デートとか始めてなんですよ  やっぱり女だけじゃなくて男でも始めてだと血がでるもんなんですね」と言った。

彼女は一瞬道路にあるひかれた動物の死体を見たときのような顔をしたあと「アハハ」と笑った。

もしこれが18の女性ならば滲み出る嫌悪感を隠すことは出来ないだろう。なるほど確かに彼女は24歳である。流石の処世術だ。

それに引き換え同い年と私と来たら、人を不快にさせる冗談しか言えない。もっと正確に言うと人を不快にさせる冗談しか思い付かない。

この前やるみちゃんととろみさんと加瀬ちゃんという女性と一緒に餃子の満州という店に行った。

あまりにも会話が盛り上がらず葬式のような雰囲気が続いていた。

なにか冗談を言って空気を盛り上げたい。一生懸命考えて唯一出た冗談が

「いや~こんなに女性に囲まれていると違うマンシュウがしそうですね~」 であった。流石に言わなかった。

24年間生きてきて、こんな冗談しか思い付かない自分の低俗さと低知能さに愕然とした。

私は人と接触するべき人間ではないのだろう。

そのあと彼女とはショッピングモールに行った。デート中に「手を繋いでもいいですか?」と聞いた。彼女はびっくりした顔をした後「いいですよ」と答えた。

だが五分もしないうちに「わぁこれすごい~」と言って小走りで商品を見る振りをしてその手を離した。

優しい嘘である。本当は手を離したかっただけなのだ。

本当にその商品が小走りで見に行きたくなるほどの商品であった可能性も考えた。

だが商品は賞味期限が近くなったお菓子であった。

地元のイオンモールで、賞味期限期限が近くなったお菓子に小走りで近寄る女など存在しない。

もし仮に賞味期限の近いお菓子に本当に小走りで近寄る程に好奇心が旺盛な女性だった場合、その女性はイオンモールの中を常に全速力で息絶えるまで走り続けていないと説明がつかない。

怒ってはいない。むしろ五分も繋いでくれて感謝であり、不快な思いをさせて申し訳ないと思っている。

イオンモールを出た後色々な所に行ったが、長くなりすぎるので割愛する。相手はどの場所に行くときも、飯を食べる時も必ずお金を出した。きっと奢られるのが怖かったのだろう。出来た女性である。

その後色々な所を巡り、車の中で話したりして別れた。

セックスはしなかった。彼女がまず断るだろうし、もし彼女がOKしてくれるとしても、私に「セックスしよう」と言う根性は無かった。私は東京ラブストーリーのリカにはなれないのだ。

まぁそんなこんなで工場からデートまでの激動の一日は終わった。

また代わり映えのない日々の始まりである。このやるせない思いをぶつける場所はどこかに無いだろうか。

いっそ送ってみようか すき家ラジオに